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Thursday, March 22, 2012

個人事業主・零細企業経営者に関する誤解

某掲示板で話題になった「自営業は私的な支出も経費にして脱税している」という話。大きな誤解と思い違いがあります。どうやら、会社名で領収書をもらうシーンを多々目撃されていて、それが、領収書をもらう習慣のないサラリーマンから見て「違和感」を感じる所から出ているようです。

誤解1:自営業者は脱税してオイシイ思いをしている
まぁ、やってみればわかりますが、無理です。日本では確かに申告納税制なので、私的な領収書も使おうと思えばそれでも申告は受け付けてくれます。でもね、数年に一度の税務調査の段階で否定されると、結局追徴されるわけです。ということは、面倒くさいので最初から「あからさまなごまかし」なんかやらないんですよ。

誤解2:自営業者は脱税目的で領収書をもらっている
これ、単なる習慣の違いです。サラリーマンにとって領収書は「わざわざもらうもの」です。なぜかというと会社で上司の了解をもらった買い物しかそももそもできないし、そういう機会は希だからです。そして、営業やマーケティングみたいな私的な経費のごまかしがしやすい部署でも、あからさまなごまかしは上司や同僚、会社を欺かないとできない不正で業務上の横領になる犯罪なので、非常に敷居が高い。だからその基準で領収書を気軽にもらっている自営業者を見てしまう。
自営業者に取って領収書は「とりあえずもらっとくもの」です。自営業者は公私混じった生活をしていて、どこから公でどこまで私か曖昧なところがあります。例えば、自宅兼事務所で生活し、パソコンは仕事でも趣味でも使うし、ソファや机も仕事でも私用でも使うでしょう。朝目覚めて、トーストとコーヒー片手に、好きな音楽のCDをかけつつパソコンのスイッチを入れて仕事を始める人は、どこまでが仕事でどこまでが私でしょうか。厳密な区別はできないので、結局「裁量(グレーゾーン)」という所もあります。本人も買う時点ではあまり厳密に考えてなかったりするので、「領収書はとりあえずもらっとく」習慣にしないと、もらい忘れてしまうのです。習慣ですから、何も考えずにもらっています。でも心配の必要はないです。#1で書いたように、抑止力が働く仕組みもあるし、税理士もいるので、普通は「あきらかに私的なもの」は申告には使われないのです。だから、領収書をかき集めている人がいるから、といって、脱税しているとは限らないですよ。
ただ、これにはもうひとつ背景があって、上の例で・・例えば会社でも、朝、出勤後、コーヒーマシンで無料コーヒーを飲み、備え付けのラジオで音楽を聴く・・と想定してみてください。コーヒーもラジオも「福利厚生費」として法人税から控除されています。でも、家で飲むコーヒーやラジオは経費控除できません。一方で、自営業者ならどうでしょう。自分が経営者なのですから、コーヒーもラジオも「仕事中に飲む」「仕事中に聞く」なら経費として申告しよう、と思うかも知れません。この「サラリーマンが、自分が飲むコーヒーやラジオを経費控除できない」からといって、「自営業者が申告するのはケシカラン」というのは筋が通りません。勤務先の会社では経費控除しているからです。一方で、自営業者が買うコーヒーの公私はどうつければいいのでしょう?という問題もあります。「全部経費だ!」と主張する事も(理論上は)できるからです。
つまり、サラリーマンが見えているのが「自分の所得から控除できるモノ」だけなのに対して、自営業者は「サラリーマンが勤務先で(会社が)控除しているモノ+サラリーマンがその所得から控除しうるモノ」で比較して議論しています。比較対象が違うのですから、話がかみ合わないのは当たり前か・・・。
で、そのために「給与所得者控除」なるものが生まれたわけですが・・・。

誤解3:自営業は自由に領収書を「切れる」
これ、まじめなサラリーマンの方は知らないかも知れませんが、サラリーマンの中には自分が自由に交際費を使えないことに不満を持って、下請けなど弱い立場の人に「接待」を要求する人がいます。自営業や零細の社長に「いいでしょう~、領収書切れるんでしょう?」と迫るシーンを何度か目撃しました。その際に誤解しているのは「そのお金、どこからか降って湧いてくる」と思っていることです。冷静に考えてみればわかりますが、普通の個人や零細企業に「交際費枠」なんかありません。頂いたお仕事の費用の中から支出するしかないんです。恐らく、サラリーマンだと「領収書=戻ってくるお金」という感覚があるので勘違いしているのでしょう。あからさまに接待を要求する輩は少数ではありますが、一定の割合でいるようです。

誤解4:自営業者は自己裁量で申告できるので税務上得している
もちろん得している人もいるでしょうけど、ほとんどの人はサラリーマンほど得していません。サラリーマンの税金はガラス張りと言われますが、実は「給与所得者控除」があって、年に60万円ほど領収書なしで控除されます。生産財を全て元請けで用意するような(サラリーマンに就業形態が近い)請負労働だと、交通費くらいしか費用が発生しないので年に60万円もなかなか使えませんし、そもそも領収書がないと控除してもらえないので、その手間を考えても、一般にはサラリーマンの方がはるかに得です。この手の議論では、自営業者がよく「サラリーマンも控除あるじゃん」という論調で反論するのですが、それはマズイみたいです。「不正に目をつぶれ」と言っているように聞こえるからです。グレーな経費でも「説明が付く」事が重要なんですから「私的な利用に目をつぶれ」というのではなく、「説明可能なモノしか申告には使わないから問題ない」と主張すべきです。自らが「必要経費だ」と信じるモノは堂々と申告すればいいじゃない?。

誤解5:サラリーマンは清廉潔白なのに自営業者はズルイ
半分ウソです。多くのサラリーマンが清廉潔白なのは裁量権がないからです。自営業者は経営者ですから、会社で言えば社長とか経営幹部に当たります。多くの会社で社用車って「高級車」ですよね。異動するのに本当に必要?とかあまり考えないと思いますが、ちゃんと会社の経費で落ちています。要するに、会社には「事業に必要だと判断する裁量権」が与えられていて、自営業者も零細企業社長もその裁量権を持っています。サラリーマンはその裁量権がない、というだけ。
しかし自営業でもズルをする人ももちろんいますが、サラリーマンにだっています。営業で交通費や接待費を誤魔化したり、マーケティングで下請けのイベント会社からキックバックもらったり、など不正をする輩はどこにでもいます。だから、「自分がやってない」からといってサラリーマン全員がクリーンで、自営業者みんながブラックとかグレーだと決めつけない方がよいです。

誤解6:適正に一律の基準で課税できる
サラリーマンの所得計算は一律で計算されます。だから同じように計算すれば、チャンと適正な金額が出ると誤解されている人が結構います。#5に書きましたが、いろんな支出に対して会社が「事業に必要」かどうかを判断する裁量権を持っていますから、経営者が「事業に必要な支出だ」と考えれば費用だし、でなければ費用には為りません。ただ、それでは言ったもの勝ちになって公平な課税ができないので、一応一律の基準が存在し、その基準に従って課税する事になっています。でも「事業に必要かどうか」なんて税務署の人に判断できるんでしょうか?。無理です。全く同じ業種、業態の企業でも経営戦略が違えば、必要なコストも違うんですから。まして、上に書いたように公私入り交じった生活してたら尚更です。で、結局の所、ある程度の課税のガイドラインと「アカウンタブル(説明が付く)」かどうか、という基準にならざるを得ません。ここに自営業や会社に対する課税の難しさがあります。

結論:このような事を考えると、グレーゾーンの裁量があるとは言え、時々「明らかに私的な利用じゃない?」と思えるような領収書発行を見かけるとしても、概ね、概ね「キチント説明が付く領収書」が適正に申告されていると信じていただいてよいと思います。説明が付かないと税理士が却下しますから。税理士が却下したら、決算申告にはその領収書は使われません。そもそも、私的な利用をチマチマやって節税できる金額なんてたかが知れています。1万円の領収書で、2000円得するかも、というくらいです。そしてそれもあまりあからさまにやるとスグ税務署にばれますから、やりませんよ。税務署は日本全国の会社や商売のデータを持っており、原価構造や費用の使い方、仕入などもよく知っているので、あからさまにやると「同業他社と比べて変だ」と目について、調べられますから。

ただ、中には,何でもカンでも経費として申告する人もいるでしょう。でもそれって、経費をちょろまかすサラリーマンと何ら変わらないわけで、自営業だけ取り上げて「自営業の人は、脱税している人が多い」ようなイメージだけで色眼鏡で見る、ってのだけは勘弁して欲しいですねぇ。

整理してみると、
1.サラリーマンと自営業者は立場が違う
サラリーマンは事業の推進に対して私的な裁量権を持たないのに対して、自営業は経営者そのものなので、裁量権を持つ。従って、その裁量権を行使する部分が、サラリーマンから見ると「不当に脱税を試みている」ように見える。実際にはそのサラリーマンの勤務先の経営者(脱税しているわけではなかろう)と同じ事をしているだけ。

2.領収書をもらう=不正と早合点している
サラリーマンが事業で使うものを買う場合、会社の承認の元に購入して領収書をもらう、のが標準なので、「領収書をもらう=経費申告に使う」のが明らかです。一方で、自営業者では何も考えずに「とりあえずもらっとく」習慣の人が多く、特に事業用か私用か区別せずにもらって、「後で」判断する、人が多い。が、サラリーマン目線で見ると、その感覚が理解できないので「申告に使うつもりだ」という風に見てしまう。実際には上記したとおり、「説明の付かない領収書は申告に使えない」のだけれど。

3.確かに?という申告をする人もいるだろうけれど
実際には家族の食事も申告する人がいるだろうけれども、それこそサラリーマンだって交通費を水増しして請求する人だっているし、不正をする人もいる。要するに「ごまかせそうならごまかす」人はどこにでもいるわけで・・。自営業だけ取り出して領収書をもらう人を、サラリーマン感覚で断罪し、「私たちサラリーマンは清廉潔白だけど自営業はズルイ」と非難するのはどうだろう・・・と思うわけで・・。

愚痴でした。

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