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Monday, January 25, 2016

同一労働同一賃金

安倍首相が、今年の施政方針演説で表明したらしい。

 うーん。いいことだとは思うんだけど、ハードル高いぞ。今の日本的労働慣行をぶっつぶす勢いだもの。なんだか、「派遣社員」や「非正規」の単価が上がる、とか思っている人が多いみたいだけど、そんな話じゃないよね。

同一労働、同一賃金、にするためには、現在の「総合職」「一般職」ではなく、営業、事務、マーケティング、技術、など職種を細かく定義して職務内容を明確にし(ジョブ・ディスクリプション)、それ毎に適切な給与水準を設定しなければなりません。現在の日本の多くの会社ように、定期異動でいろんな部署に異動させる、という事ができなくなります。なにしろ労働条件が変わってしまうわけですから。異動に伴って、条件が下がる場合も考えられるわけで、一方的に異動を命令できなくなります。

基本的には、職種別採用をしなければならなくなり、入社後の異動は本人と協議して決めなければならなくなりますね。

となると、異動を断った場合どうなるか、も考えておかねばなりません。ペナルティは課せませんが、一方で、異動前の事業が赤字、等の場合は、異動させざるを得ません。つまり、「異動を受け入れないならクビ」という強権を企業側に持たせる必要があります。

一方で、事業部門は、様々なスキルや職種の人の集合となり、「とりあえず空いている人に仕事を割り当てる」事はできなくなります。事業部門では、様々なスタッフの組み合わせを自主的にやるでしょうが、本社からフィットしない人材を押しつけられてはたまりません。ですので、事業部門が独自に人事権を持つ必要があります。

また、ある部門で人を募集していて、ある職種では余剰人員が出ていれば、従来なら異動で調整したでしょう。しかし職種別となれば、そうは行きません。スキルがミスマッチで、合意ができなければ異動せずに解雇され、別の人が雇用されなければなりません。

 突き詰めていくと、従来「総合職」の社員がらせん階段を登って順々に昇進していった・・ようなスタイルの日本的雇用慣行は崩壊し、米国企業のような雇用慣行になっていく、という事だと理解しました。その延長線上に非正規労働者の処遇があって、「正規だろうと非正規だろうと、同じジョブディスクリプションなら、同じ単価を付ける」という話になるのだと思われます。

 外資を渡ってきた私としては個人的には全然アリですが、日本企業の皆さん、耐えられるでしょうか・・・。

追記:ついでに補足
  1. ひとつは、職務の記述の仕方。今まで日本はボトムアップ型組織なので、職務の分担の「中核部分」だけを課して、それに必要な事は「全部やれ」でした。どうしても他部署の職権や知見を借りる場合「社内調整」が入るのですが、それがやたらに多い。同一労働同一賃金下では、「仕事の範囲」を明確にする必要があります。つまり、中心部分だけではなく、「外枠」「外部仕様」を明確にする必要があります。
    「だいたいこんな事やってね。後はお任せ。」では賃金設定ができませんから。
  2.  #1のように「仕事の外部仕様」を事前に定めなければならない(でないと給与交渉できない)、とすると、仕事の組み立て(プロジェクトや事業の起案)に際し、組織の構造や役割についてより明確に定義する必要がある、という事です。これは最初だけですね。一旦、「マーケティングはこう」「営業はこう」と決めたらしばらくは変わりません。また、業界で定義も収斂するでしょう。外資では「営業」「マーケティング」「XXエンジニア」と言えば、だいたい職種も責任範囲も共通理解があり、ほぼ同じです。なので、着任した初日から動き出せます。
  3. 本文に書いたように、ジョブディスクリプションが明確になれば、ミスマッチの異動はしにくくなるので、「こっちで解雇、あっちで募集」状態が起こり、「とにもかくにも雇用保護」を重視してきた日本的な雇用環境が崩壊に向かいます。ハイブリッドにしても、少なくとも「基本給」は低く抑えられて、職務給などで調整する形になると思われます。「社員」「非正規」ではなく、「スキルや経験」に値札がつくので。正社員の権利は「最低限の雇用保障=基本給(最低賃金レベル)の保証」程度に後退するのでは?
  4. 結果としてジョブモビリティ(人材市場・労働市場の流動性)が高まりますね。
  5.  政府が何を考えているかわかりませんが、私にはそのシナリオの第一歩だと思います。いきなり雇用改革ではぬるま湯に浸かっている国民が納得しないでしょうから。