Labels

hotel (65) mac (49) ubuntu (27) English (10) chinese (9) travel (6)

Wednesday, February 20, 2019

同一労働同一賃金は日本の労働慣行と矛盾する

本日の読売新聞34面に、東京高裁判決が載っていた。駅の売店の契約社員(10年勤務)に退職金を払うように命令が出たそうだ。同じ仕事の正社員にはある、というのが1つの根拠だった。

同一労働同一賃金の考え方から言えば、一歩近づいた、という事だと思う。しかし、これは正社員の「既得権益」の矛盾をまた1つ明らかにしたものとも言えるかも知れない。

そもそも正社員にはなぜ退職金制度があるのか。なぜ非正規は対象外なのか。それは恐らく、会社が認識する従業員とは基本的には「正社員」だけで、非正規社員は言葉は飾っても「手足」だからだ。労働条件交渉をして、社員の待遇について団体(労組など)で待遇を形成しているわけだが、「全従業員」にその処遇は適用できない。仕事には波があるし、「手足」の業務なら安い賃金でも労働力が手に入る。わざわざ誰でもできる、仕事に高い賃金を払う事に合理性がない。今までは労組も、自分たちのメンバーである正社員の処遇さえ改善できればよかった。そしてそのために、「犠牲となる」非正規の社員が増えることに目をつぶってきた。「全員が好待遇」なんて無理だと分かっていたのだ。だから、「好待遇の人たち」と「そうでない人たち」の処遇に差をつけて、好待遇の人たちの権益を守った。

さて、日本では社員は「ゼネラリスト」として雇用される。クビにできないので、能力がない人でも席は残ることが多く、処遇も悪くない(ライバルよりは相対的に劣っても、他社比較では十分に好待遇)。で、「誰でもできる事」を好待遇でやっている。この判決に従えば、企業的にはそれもできなくなる。同一労働同一賃金に従えば、今度はその「誰でもできる仕事」をやっている人たちの給料を引き上げるか、当人の賃金を下げるかしなければならないからだ。しかし、当人の同意のない賃下げは事実上できない。なので、この判決によれば、会社としては、「誰でもできる仕事」に高賃金を払わねばならないリスクを負うことになるわけだ。判決の例はキオスクだから、例えば、本部のエライ人が何かやらかした(クビになるほどではないが何かネガティブな事)。で、ラインから外され、(左遷として)お店に行かされた、と。店に行ったからと、給料が店員と同じになるわけではないので、店員としては好待遇だ。他の従業員がこの「元本部の偉いさん」の処遇を根拠に、同一労働同一賃金を実現しろ、と言われた場合どうするのか。なかなか難しい問題だろう。責任や事実を曖昧にして暗黙の了解で「左遷」させているのに、一人だけ賃金が異なる根拠を明確にする必要が出てきてしまう。「やらかした罰としてやらせている」事を。それはそれで面倒だ。この曖昧さが柔軟さでもある訳だから。

 ジョブディスクリプションを定めて、ポジションに応じた賃金を出す、という流れはある。しかし、進まないのは、それをやると「異動」が命令できなくなってしまうからだ。企業に取っては異動命令を出す権利は重要だ。解雇や賃下げできないので、正社員の雇用を是が非でも守るためには、「職はなんでもいいから仕事をさせる」裁量を持たないとできないから。で、ずっと同じメンバーにすると澱むので、定期異動で部署を回しているわけだから。職種やポジション、労働内容で賃金を決めるのはよい流れだと思う。だけど、会社側に解雇などの権利を与え、「仕事(雇用)はポジション単位(会社単位ではない)」という形にしないと、寸詰まりになってしまう。

これから外国人労働者が増えるともっとややこしくなる。文化が違うと想定してない事が起こるだろう。その際、解雇権がないと非常に危険だ。緩和した方がいいと思う。日本人でも「変な人」「常識の通じない人」「権利ばかり振りかざす人」はいるものだが、少数に留まっているから企業も吸収できている。外国人に日本の常識は通じないと思った方がいいし、かといって外国人にだけ解雇権を行使できるような法律もできないだろう。だから会社に大きな裁量を与えないと。結局、権利意識の強い人ばかりが得をする事になってしまい、割を食うのは大人しい人だ。誰だって自分の雇用は安泰にしたいだろうが、それで一番得をするのは権利意識の強いフリーライダーだ。会社は、彼らを養うために、良識的な大人しい人の給料を抑えざるを得ない。総人件費の枠は天井があるんだから。

そんなことを考えて見ました。